カテゴリー4審査委員長コメント 原雄司
(1) 総括 審査プロセス・ポイント
3Dプリンターを使ったモデリングコンテストはたくさん行われているが、教育プログラムの一環として盛んに行われている、審査基準が明快でシンプルかつ競技性のあるエッグドロップコンテストを参考に、3Dプリンターを使うことを前提にしたコンテストを企画した。
・ルールについて
「一番高いところから落としても壊れないものが勝ち!」という明確なルールにし、3Dプリンターならではの新規性のあるアイデアの制限にならないよう、落下速度、落下地点の精度などの一般的なエッグドロップコンテストの評価項目をあえて外した。また、後加工を加えなければ3Dプリンターの種類、材質は自由とした。
ただし、実戦大会(落下実験)において、最優秀者が同じ高さだった場合の評価と、3Dプリンターや3Dツールを使った設計の創造的なアイデアを評価するため、以下の評価軸も補助的に設定した。
1.デザイン性(カタチ)
2.コスト
3.新規性
4.実用性
5.ストーリー性
設計力はもちろん、3Dモデリングや3Dプリンターのスキルを総合的に活用する必要があるため、プロ/セミプロ部門として設定しましたが、企業や社会人のプロのほか、学生も含めて18名に参加して頂いた。工夫をこらした力作が多く、また事前の一次審査の動画投稿による自己申告では予想以上の記録が出たため、会場を急遽変更する必要になった。
13日に鎌倉学園さんの協力で同校にて開催した実戦大会では、公平に実施するため同じ条件、環境で行った。
また、実戦のルールとして、参加者(チーム)ごとに生卵1つを渡し、自己申告で挑戦する高さを参加自身が宣言して、6分間という制限時間内で挑戦してもらった。
その結果、一次審査よりも結果が低くなってしまったチームや0mの記録で終わってしまった参加者も居たが、反面、本番で記録を伸ばした参加者も居て、競技自体の面白さも、参加者だけではなく審査員や関係者も楽しく実施できた。
(2) 最優秀賞ノミネート作品についての審査講評
13mからの落下を成功し、会場の制限からそれ以上の計測は不可となってしまったほどの記録をだした譜久原さまの「Reacushion(reaction + cushion = reacushion)」が文句なしの優秀賞となった。
記録もさることながら、「地面に衝突するエネルギーを緩衝システムに利用できないか。 単純なピストン形状で一端を卵が蓋をする構造を考えた」という発想から設計されたパッケージは大変ユニークで、かつ、紙などを使った他のエッグドロップでは困難な3Dプリンターの特性を活かしたデザインでこの点でも高評価だった。
また、当日は都合で譜久原さまが参加できないとのことで代理人による落下を行ったが、特に工夫や注意をしなくて記録が出た点もとても評価している。大変素晴らしい作品だった。
(3) 特別賞についての審査講評
記録は6m(3位タイ)を成功させた、是枝さまの「voronoi egg shell」。この作品を特別賞とした。記録としては2位のヨツバチが7mだったが、紙を使ったエッグドロップでは見かけるタイプのアイデアでもあり、コンピューターを活用したデザイン手法である「コンピューティショナルデザイン」が近年話題になっているが、今回参加された作品の中でも、幾つかその手法を使ったものが見受けられたが、デザインの美しさ、生卵を封入する際の簡便さ、全体的に少ない材料でも造形できるカタチなどから、まさに3Dプリンターと3Dツールを存分に活用した作品として、審査委員の満場一致で同作品を特別賞として選出した。今後、3Dプリンターを使ったこのようなコンテストでは、さらにブラッシュアップしていくことができるタイプのデザインでもあり、また他の分野にも応用できる手法だと期待している。
(4) 賞には漏れたが、紹介しておきたい作品
2位の今飯田さまほかチームで参加された「ヨツバチ」は、7mという2位の結果を残した素晴らしい作品だった。しかし、特別賞の講評で前述したとおり、紙のエッグドロップコンテストなどで同様な発想のものが数多く存在したため、新規性はあまりなかったが、彼らがそれらのコンテストの経験者であったこと、また3Dプリンターに置き換えることによる効果や難しさなど、彼らにとっても、コンテストの運営サイドや他の参加者にとっても有益な情報になったのではないかという点で、意義のある作品だった評価できる。
美しさの点で言えば岡本さまの「bobbing Egg」やクラゲからインスピレーションされたカタチのデザインをされた前田さまの作品が審査員からは好評だった。ハイエンド3Dプリンターによる靭性のある材質で造形されたもので、生卵の封入が大変簡単でスマート。反面、外に飛び出して割れるという課題があったが、3Dプリンターならではデザインで、機能面の向上ついては簡単に改良ができると思われる。
職場で仕事(QC活動)の一環として取り組まれた嶋崎さまの「U.N.I」は、衝撃吸収部分を、直交表L18を用いてテストピースの評価実験と分析を緻密に行って設計されたとのことだったが、結果的には1mという結果で残念だった。
また、郡山さまの「Impeller Shield」も、3D設計した衝撃吸収部(インペラー)を解析にかけて、十分に計算された設計を施していたが、こちらも結果は1.4mということで記録は振るわなかった。
一方、本大会でもっとも物議を醸した長瀬さまの「MOJA」は、FDM方式の3Dプリンターの材料をロードした糸状の樹脂を丸めて、纏める冶具だけを設計・3Dプリントしたものを使うという、ルールの抜け穴をついた、いわば「グレゾーン」の作品だったが、6mの記録を出して結果的に3位タイとなった。
局所最適化、カイゼンという日本のものづくり的発想の2者(U.N.IとImpeller Shield)と、逆転発想というかイノベーション的な「MOJA」は良い悪いは別として、対比的で興味深かった。
いずれにしても、「生卵を落としても割れないように保護する」という目的をより良い結果を出した「MOJA」のような自由な発想は素晴らしいと評価できる。ただし、今後、3Dプリントエッグパッケージにおいては、こういった3Dモデリングなどで設計せずに、3Dプリント材料を緩衝材として利用することの可否については議論する必要があると考える必要がある。井坂さまの「Plastic soft cream.」は、緩衝材となる部分を3Dプリンターを制御して意図的作ったものだが、このあたりがルールぎりぎりのラインにすべきではないかと思われるが、いずれにしても材料を制御や設計せずに緩衝材として用いるという点については、今後開催するとしたらルールに明確なガイドラインを示す必要があると感じている。
本大会を通じて特に思ったことが、参加者からのポジティブなコメントだ。3Dプリンターが身近にあるとことで、今までできなかった、あるいは困難だった実験やテストも気軽にできるようになったこと。そして、それを実感できる良い経験になったということを多くの参加者から直接コメントが多かった。また、可能であれば、第二回、第三回と継続してほしいとの希望をもらい、主催者としては大変うれしいコメントを頂けた。3Dプリントパッケージは、競技性が高く、評価が明確で、3Dプリンターや3Dデジタルツールのスキルをフル活用できる本競技は、今後発展拡大させていく意義はあるのではと強く感じた。