FAB 3D CONTEST 2019
審査結果報告
応募総数:個人部門 17件
チーム部門 13件
最優秀賞
1作品
希望のMYフック 鳳凰高校・南さつま市・米盛病院の取り組み
[鹿児島県 希望が丘学園鳳凰高等学校 鳳凰高校FABチーム]
優秀賞
各カテゴリー1作品ずつ (計2作品)
E.corner [中山 成史]
プラスチックカップのおうち [福岡雙葉高等学校 TeamK]
特別賞
各カテゴリー1作品ずつ (計2作品)
鎌倉観光をもっと楽しく!「カマピクト」 [滑川 寛]
Interview at FUKUOKA city [TEAM TECH PARK]
最優秀賞
1作品
希望のMYフック
鳳凰高校・南さつま市・米盛病院の取り組み
鹿児島県 希望が丘学園鳳凰高等学校
鳳凰高校FABチーム
栗野寛寿さん、吉田萌々花さん、横井大樹さん、
堀川卯楽良さん、吉満佑晟さん、森本くるみさん、
川路航平さん、冨岡譲二さん、中村太悟さん
講 評
人命救助というシリアスな領域における問題点に着眼し、一つの解決策を提示したことは社会の課題解決の観点から大変有意義と考える。製作過程のなかで引張試験や専門家の助言に対して改善と検証を行うことで、モノづくりのプロセスが実社会への適用へ一歩進んでおり、その実用性と完成度においては、今回エントリーのあった作品のなかでも群を抜いていた。
加えて、製作にあたっては同じ地域の高校の学生と教員、救急救命士、そして病院の関係者などが主体的にそれぞれのスキルを持ち寄り作品の完成度を多角的に向上している点も評価のポイントとなった。
また、講習の必要性を訴えることで市民への意識付けにも寄与している点は特筆すべきであり、デジタルファブリケーションの可能性と限界を同時に照射した、今後のファブ社会を見通すうえで大変示唆的な作品と思われる。
優秀賞
各カテゴリー1作品ずつ (計2作品)
E.corner
豊田工業高等専門学校 1年
中山 成史さん
講 評
自然災害に対する不安や恐怖といった曖昧模糊な感情からスタートしつつ、シンプルなアイディアとデザインにたどり着いた直感力は特筆に値する。
また、製作のプロセスにおいては、ごみを最小限におさえる、あるいはムダを省くなどSDGs的な観点を随所に感じた。
シンプルさと応用性が高いことにより、この作品が「自分も作りたい、作れる」という想いや熱意をより多くの人々に拡散し、社会的な課題解決を促す力につながることが期待できる点も、今後、より多くの人びとが主体的に地域の課題解決に参画し、より良い社会を作っていくためのきっかけとなることが期待され、高評価の要因となった。
プラスチックカップのおうち
福岡雙葉高等学校 TeamK
瀧本 華蓮さん(2年)、山嵜 一花さん(2年)、
高畑 里梨花さん(1年)、須田 莉子さん(1年)
講 評
課題設定時にSDGsの観点を活用してチームのゴールを共有している点が評価できるほか、試作過程においてチーム内や周りの人たちからの気づきをゴールと照らし合わせながら積極的に取り込み、改善を繰り返している様子はFab Citizenの一つの在り方を示していると考えられるだろう。
また、ユーザーの使い易さ・楽しさの演出・地域への親和性など独自性を謳える完成度までチームで粘り強く取り組んでおり、ドキュメントからはそのプロセスを通してチームのメンバー一人ひとりが楽しみながらも成長していることがうかがえた。
特別賞
鎌倉観光をもっと楽しく!「カマピクト」
鎌倉学園高等学校 1年
滑川 寛 さん
講 評
デザイン思考を取り入れ制作過程で常に本質的なユーザー価値に向かって探究している。特に、鎌倉市を訪れる外国人観光客が抱える問題を発見するため、自ら実際にガイドを行いターゲットユーザーの観察を行っている点は高く評価できる。
ニーズを明確化したあとのアイディエーションやプロトタイピングのプロセスも丁寧にドキュメンテーションされており、思考の軌跡が明確に記されていることは、今後ほかの地域で同様の課題に取り組みたいと思った際に参考になるだろう。
また、製作過程のなかでユニバーサルデザインの着想からユーザーを視覚障害をもつ人たちへ拡張し、点字を見た目まで拘って作りあげている点は高い完成度と独創性を生み出している。
Interview at FUKUOKA city
TEAM TECH PARK
TECH PARK所属 / 福岡県福岡市 小学4年生 Tさん
TECH PARKクリエイター 渡部あゆみさん
講 評
地域の課題発見の過程とゲーミフィケーションを掛け合わせた点はほかのエントリーにはなかった要素であり、非常に高く評価できる。
ボードゲームのシナリオを課題と解決方法をセットで考える必要があるため、「作る」と「使う」を繰り返していくうちに自然に楽しく学びにつながる仕様になっており、このプロセスをまちづくりのフレームワークとして捉え、他の地域へ展開する可能性も十分に考えられる。
SDGsや社会の課題解決をもっと身近に感じるきっかけとして、生活者の当事者意識を醸成する「コトづくり」は、今後の社会を考えるうえで大変有用と考える。
全体講評
4年目を迎えたファブ3Dコンテストでは、応募カテゴリを再検討し、「ファブのあるまちづくり(SDGsや地域の課題解決と、新技術の可能性とを結び付けて、ファブによってまちの未来をより良くするモノ・コトづくり)」としました。また、部門構成も再編成し、個人部門・チーム部門ともに、小中高生に中心になって活躍してもらえるようなコンテストにしました。
3Dプリンタやデジタルファブリケーションといった道具は、アイディアをカタチにすることを加速しますが、だからこそ、「何をつくるのか」「なぜそれをつくるのか」といった概念設計を多角的に行うことが、より大切になってきています。
また、アイディアを1度カタチにしただけで満足するのではなく、カタチにしたものを他人に見せたり、実験したり、評価したりしながら問題点を発見し、改良に改良を重ねてアップデートしていく姿勢も大切です。
このどちらも、「一人」ではなく、さまざまな「仲間」と取り組むことで、力が生まれ、発見(自分の知らなかった視点の獲得)も広がります。最初は仲間がいなくても、ものづくりを通して「仲間(人とのかかわり)」を増やしていくこともできるでしょう(「もの」には、人と人とをつなげる力があります)。
背景や年齢の異なるいろいろな人々と協働しながらプロジェクトを進めていく際に、一緒になって取り組めるテーマが「SDGsや地域の課題解決」であると考えたため、コンテスト全体のテーマとして掲げることにしたのでした。
今年のコンテストではこの意図をよく理解し、良く考え、良くつくり、そしてそれを通じてさまざまな人との出会いが描かれていたと思います。Fabbleの記録が、単に「ものづくりの記録」だけでなく、「活動全体」の記録になっていたことにしっかりとそれが表れていました。
今後、さらに先にある課題として、「自分のまちを本当に良くとらえるためには、他のまちをたくさん知らなければいけない」ということが浮かび上がってきていると感じています。
現代、人の移動が加速し、「地域」の概念も広がってきていて、自分の住む町だけでなく、いろいろな「場所」と「場所」を結びつけていくことも、いまでは可能になってきています。
離れた場所にあったモノ・ゴトを結びつけることで、解決できる課題もあるはずです。来年のコンテストについてはまだ未定ですが、「SDGsや地域の課題解決」に向けて、いま「全力で」何が可能か、ということを、大人も含めて取り組めるような場をつくっていくことが、未来を明るく照らす道になっていくはずです。
田中浩也
ファブ3Dコンテスト2019 実行委員長・審査委員長
慶應義塾大学 SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアム 代表理事
慶應義塾大学環境情報学部教授、慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ 代表。博士(工学)。デザインエンジニア/ソーシャルエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D設計/生産/製造システム、創造性の科学と文化およびその支援。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」